文献要約1

川口太郎『人口減少時代における郊外住宅地の持続可能性』[2007]駿台史学第130号

  • 問題提起

高度経済成長期において都市への人口流入に伴い開発された郊外住宅地は、今日その多くが世代交代の時期を迎えており、転換期にあると言える。本研究では横浜市の住宅地を例に、人口減少社会を迎え、存続の危機に直面しかねない郊外住宅地の持続可能性について住宅の継承の面から取り上げる。良好な住環境を維持している住宅地では親世代から子世代への継承がうまくいっているのだろうか。


    • 1.戸建住宅地の空き地・空き家発生に関する研究

   ---中西正彦他『首都圏郊外の宅地開発における空き地・空き家の解消方法に関する研究』[2004]都市計画論文集39号
   ---小浦久子『郊外住宅団地の居住実態と市街地の持続に関する研究』[2004]都市計画論文集39号

     ⇒開発時期が早い郊外の戸建住宅地では高齢世帯が多いが、転出希望や継承者不在により空き地空き家の発生は避けられず、新たな居住者を得るために住宅密度を下げ魅力を増進し、市場性を維持する必要があると指摘

    • 2.限界住宅地*1に関する研究

   ・木下貴弘他『大都市圏周縁都市における郊外住宅団地の住み替え構造に関する研究』[2000]都市計画227号
   ・小場瀬令二他『限界郊外住宅地における都市計画規制とバブル経済の影響に関する研究』都市計画論文集35号など

     ⇒都心から遠く離れ、市場価値を失った郊外住宅地では空き家が発生しても新たな居住者が望めず、空き地空き家が常態化していることを指摘

    • 3.戸建住宅地の居住継承に関する研究

   ・山本茂他『居住者の定住意向から見たニュータウンの住環境保全の課題』[2005]建築学会計画系論文集597号
   ・鈴木佐代他『郊外戸建住宅地の居住者変化と住宅継承に関する研究』[2005]建築学会計画系論文集597号

     ⇒住宅継承を3パターンに分け、好条件の住宅地でも直系親族に住宅が継承される可能性は低いことを指摘

    • 先行研究に対する評価

   世代交代期を迎えた住宅地が市場性によって選別、淘汰されることについて同意した上で、住宅地の存続を考えるにあたって親から子への住宅継承を前提にすることは非現実的であり、市場性の維持が重要であることを指摘。


    • 利用しているデータや資料

研究の中心となっている資料はアンケート調査によるものであり、数量的なデータは人口や地価に関するものが中心である。

  ・国勢調査
  ・国土交通省都市・地域整備局『平成16年度経済社会の変化に対応した大都市圏郊外部の整備方策検討調査』
    ⇒人口予測のデータを用い、利便性に劣る地域を中心に大都市郊外でも減少が見込まれることを示す。

  ・東京都生活文化局『住宅に関する世論調査』[2003]
  ・東急住生活研究所『第20回サラリーマンの住まい意識調査』[2005]
    ⇒住宅に関する志向など

  ・一戸建て住宅に対するポスティングによるアンケート
  ・一部世帯に対するヒアリング
    ⇒対象とした住宅地の居住者の属性・志向を把握

    • 分析方法

 世代交代期にある横浜市の郊外住宅地を事例として取り上げ、公示地価の推移や住宅地図から住環境や土地利用変化などに言及し、良好な住環境が維持されていることを明らかにした上で、アンケート調査を用いて住民の属性や志向を明らかにする。
アンケートによって住民の大多数が大企業に勤務する(していた)60代前後のサラリーマン層であることや、子世代もそれを踏襲した階層にあること、さらに住宅の継承に関して親世代は比較的子との同居を望んでいるが子世代は同居よりも近居志向であることを示し、子世代にとってこの住宅地が必ずしも魅力的でなく、住宅ニーズを反映していない点、さらに建築協定により良好な住環境が維持されているが故に二世帯住宅建設が困難になっていると指摘する。

    • 結論

 住宅の継承時期を迎えた際、良好な郊外住宅地であっても直系親族への継承による存続はあまり期待できない。よって住宅地を存続させるためには住み替えによる住民の入れ替えが必要であるが、その際は住環境の劣化を避ける必要がある。

*1:都心から遠く離れた住宅地。印西の比じゃない、茨城でもかなり水戸寄りな町とか